税務署OBは、役立つか?

この記事の著者

工藤聡生 
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政経出身、公認会計士・税理士。

税務署OBの税理士だと、税務調査のときにうまく対応してくれるという話をたまに聞きます。
本当にそんなことはあるのでしょうか。
税務署のスタッフは、厳しい競争にさらされています。
調査件数と増差額というノルマに縛られています。
年に30件ほど、調査をして、さらに、同僚よりも税金を徴収しないと、出世できず、みじめな思いをさせられます。
そんなに出世って大切なの?と思われるかもしれません。
出世意欲というよりも取り残される恐怖といったほうがよいでしょう。
同期が、順調に出世しているのに、自分だけがとり残される恐怖です。
しかも、税務署でのキャリアは、転職には不利です。
潰しはききません。
かれらは、抜け出すのが困難な閉鎖された世界に住んでいるのです。
抜け出すチャンスがなく、いつまでも居続けなければならない場所で、仲間に取り残されることに恐怖を感じないひとがいるでしょうか。
ちょうど、江戸時代の農民が村八分に会うのに類似しているかもしれません。
当人からすれば、想像を絶する苦しみなのです。
『先輩なんだから顔をたてろよ』といわれても、
顔をたてていたら、自分は成績があげられません。
顔をたててもなにもメリットがないだけでなく、閉鎖社会で疎外されるリスクがあります。
たとえば、営業マンが、同業他社に転職した先輩のために、その先輩の顔をたてて、大切な得意先をみすみす、渡しますか?
ありえませんよね。
税務署に努めている人も、同じ人間です。
心理は同じです。
税務署OBだからといって、顔が利くということはありません。
むろん、税務署に努められていた方は、税務調査の仕組がわかっているので、税務調査の勘所は、理解しているでしょう。
しかし、税務署職員がOBに気を使って税務調査を甘くしてくれることはありません。

むしろ、そこには、逆の危険性があります。
税務署OBが逆に、税務署職員に同情して、税務署側に立ってしまうことです。
税務署OBは、何十年も税務署で税金を取る側にいました。
そう簡単にその方の価値観や思考方法が変わるものではありません。
本能的についつい、税務署側の考えに賛同して、同調してしまうことが少なくありません。
交渉の余地がある議論でも、税務署側の理屈にたって、やすやすと受け入れてしまうことが少なからず起こります。
それどころか、税務署OBの税理士に、税務署と一緒になって、叱られたという笑えない話も、実際にはよくあるのです。

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