工藤聡生
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政経出身、公認会計士・税理士。
銀行員は決算書のここを見る!銀行の評価を上げる説明の仕方とは?
銀行の融資は、稟議書を回して審査されます。
たくさんの人たちの決裁が必要とされています。
担当の銀行員、担当上司、融資係、融資係の管理者、次長、支店長が、ハンコを押して初めて融資はおります。
大きな金額となるとさらに本店決裁が必要となります。
この稟議書決裁なしに、融資は実行されません。
担当の銀行員が、すべての役職がハンコを押してくれるような、良い稟議書を書いてくれないと、永遠にお金は貸してもらえません。
担当の銀行員に、稟議書を書いてもらうためには、まずは、その銀行員に『貸しても大丈夫』とおもってもらわなければなりません。
では、どうやって担当の銀行員は、『貸しても大丈夫かどうか』を判断するのでしょうか?
90%は、あなたの会社の決算書に基づいて冷徹に判断しています。
彼が重視しているのは、あくまで数字です。
それ以外は、ほとんど気に留めていません。
社長の自慢話は、聞き流しています。
ですので、銀行員に決算書をぽんとわたすだけではだめです。
相手が決算書を間違って解釈しないように、銀行員が持ちそうな懸念を先取りして、言い訳をまくしたてておく必要があります。
この言い訳の仕方によっては、銀行員の持つ印象は格段に改善します。
銀行員が判断の基礎とするのは、基本的には、決算書です。
ものの本やネット上では、SWOT、3C といった分析手法がもてはやされていますが、実務上は、銀行員がこれらの分析手法を駆使して、評価を大きく改善してくれるということはあまりありません。
銀行員が分析主張をつかって会社のよいところをくみ取ってくれることはありません。
決算書と、それに付随する決算書に直接かかわる説明書でアピールした方が、はるかに効果があるのです。
以下に、銀行員が見る決算書のポイントと、社長の説明の仕方について説明します。
銀行員は、まず、損益計算書の利益を見ます
最初に見るのは、黒字か、赤字かです。
ただ、損益計算書には、さまざまな利益が表示されています。
売上総利益、営業利益、経常利益、税引き前利益、税引き後利益と5種類あります。
売上総利益は、売上から直接の原価を控除した利益です。
販売や管理業務に要する経費は、まだ差し引かれていません。
ですので、ほとんどの会社でまず間違いなく黒字です。
この売上総利益がマイナスだと、会社全体として平均的に原価割れ販売をしていることになります。
この売上総利益が赤字なら銀行にはまったく相手にされませんし、そもそも会社が長くはもちません。
その下に表示されている利益が、営業利益です。
売上総利益から、販売や管理業務に要する経費をひいた利益です。
営業利益は、本業がもたらす利益を表しています。
この利益が黒字であるなら、本業は健全と言えます。
銀行は、営業利益が黒字であることを期待しています。
営業利益以上に、銀行員が注目するのが、経常利益です。
支払い利息等の財務費用も控除した利益です。
この利益が黒字なら、企業は、営業活動、財務活動、投資活動にかかわるあらゆる費用を控除しても、経常的に利益が残るということです。
経常利益がプラスなら、銀行からしても、利息をはらってもまだ利益がでるので安心です。
経常利益がプラスなら、高く評価してくれます。
問題は、営業利益や経常利益が、赤字のときです。
銀行員は当然に眉をひそめます。
悪い印象を持ちます。
こういったときは、その赤字が一過性であり、翌期には、黒字になるシナリオを必ず説明してください。
『顧客の心はがっちりと掴んでおり、売上は大きくはへこんではいない。一時的な出来事により、たまたま損失を被ったが、来期以降はそんな事態は発生しないので黒字に戻る。』
たとえば、こういった趣旨の説明を事前に用意して、聞かれなくともこちらから積極的に説明してください。
税引き前利益は、固定資産売却損益や投資有価証券売却損益等の、非経常的な損益を考慮した利益です。
さらに税金を引くと、税引き後利益になります。
税引き前利益や税引き後利益もできるなら、黒字であることが望ましいとされています。
しかし、経常利益がプラスの会社が、固定資産売却損で一時的に赤字になっても、銀行員の評価は、そんなには傷つきません。
大抵の場合は、経常利益さえプラスなら、利益の出る健全な会社と見てくれます。
ただ、特別損失が毎期発生して、いつも経常利益を100%くってしまい、税引き前利益がマイナスの状態だと本当にその特別損失は、臨時的なものなのかと危惧されてしまいます。
利益が減った場合は、対策の説明が大切です
この場合、利益改善に向けた具体的な対策を銀行に説明することが、大切です。
利益が減ることは、資金の貸し手からみると良いことではないので、きちっと銀行に説明しましょう。
事業環境のせいにしてばかりしていたら、銀行の評価は下がります。
利益を改善するための姿勢が評価されるのです。
原価があがって利益が減少した場合なら、相見積もりをもらう、お客と売価交渉をして転嫁する、仕入れ先をみなおすといった、将来の対策を銀行に説明してください。
人件費が上昇したのなら、プラス面も強調してください。
人件費があがるのは、投資の側面があるはずです。
製造要員を強化した、営業マンのインセンティブを増やしたといった支出が、将来、収益を生む投資であることを明確にするべきでしょう。
社長の報酬を下げる余地があるなら、業績が回復するまでの間、社長の報酬をカットするのも、有効な対策の1つです。
銀行に社長の本気度が伝わるはずです。
利益がおちた場合には、上記のような対策の説明は、必須です。
対策の説明と、決算書は、ひとつのパッケージと考えてください。
なお、これらの業績に係る説明は、口頭では、ほかの役職者に伝わらないので、箇条書きでもよいので、文章で説明してください。
銀行員は、過去の利益も見ます
銀行は、黒字かどうかを単年度だけで判断するわけではありません。
歴史的な業績の推移にも着眼します。
経常利益が3年連続で相当額の黒字なら、銀行の評価はかなり高くなります。
今は黒字でも、前年以前が赤字なら評価はちょっと低くなります。
銀行員は、また、赤字に転落するのではないかと不安を感じます。
ですので、その場合は、『新戦略が功を奏して黒字化した。この黒字状態は、揺るがない。』という旨を滔々と説明してください。
逆にずっと黒字だったが、赤字に転落した場合には、赤字が一時的な要因であること強調してください。
上述したように『顧客は、がっちりと握っており、一時的なコスト増があったので、一時的に赤字になっただけだ。』という趣旨でうまく説明できれば、評価は大きくは下がりません。
銀行員は、貸借対照表の純資産も見ます
純資産とは、貸借対照表の資産から負債を引いた残りです。
債務超過や累積損失となっていないかをチェックします。
純資産がマイナス、すなわち債務が資産を上回る債務超過状態だと銀行員は、会社が破綻するかもしれないという懸念を抱きます。
出資した資本金が食いつぶされてしまっているからです。
債務超過だと経営改善計画を提示しないと銀行は、お金を貸してくれません。
きちっとした経営計画をつくって、再生プランでアピールする必要があります。
純資産がプラスでも、累積損失が計上されていれば、債務超過のときほどではありませんが、評価は低くなります。
累計損失が計上されているということは、創業から現在にいたるまでの利益の合計がマイナスだからです。
累積損失であるなら、『今後は、黒字は確実に長期的に維持できるので、累積損失は、早晩に解消する。』という旨を根拠立てて説明してください。
銀行員は、在庫や売掛金の残高も注視します
銀行マンは、貸借対照表上の在庫や売掛金にも注目します。
社長からすると損益計算書に比べてちょっとわかりづらいのが、貸借対照表です。
しかし、銀行マンからすると重要な判断資料なので、きちっと説明ができるようにしておいてください。
銀行員は、まず、在庫や売掛金の残高に注目します。
なぜでしょうかか?
黒字に見せかけるために、在庫や売掛金の残高を架空計上する会社が、少なくないからです。
在庫や売掛金を架空計上すると、その分だけ、帳簿上は、利益が大きくなります。
粉飾決算のほとんどは、在庫や売掛金の架空計上によるものです。
上場企業ともなると、もうちょっと手の込んだ粉飾技法を使います。
資本関係を遮断した別会社を使ったりします。
ちょっと手間がかかります。
架空在庫や架空売掛金は、見つかりやすいのですが、中小企業でも手っ取り早くできる粉飾技法です。
銀行は、売上が横ばいなのに、在庫や売掛金が増加していると、粉飾をして黒字に見せかけているのではないかと疑ってきます。
こちらが、なにも説明をしなければ、勝手に粉飾を疑って、貸してくれません。
ですから、こちらから積極的に弁明しておく必要があります。
在庫が積みあがった理由や、売掛金が増加した正当な理由を説明してください。
ご参考までに説明例を挙げましょう。
- 来期の販売にそなえて在庫を積み上げた
- 新商品を仕入れた
- 新しい仕入れ先との取引がスタートしたので在庫を積み増した
- 特別の売上があった
- 季節性の売上増加で売掛金が増えた
- 値上げした分だけ回収サイトを伸ばした
簡潔に言えば、在庫は実在しており、売掛金は回収可能であることを説明できるようにしておくということです。
買掛金残高にも注意してください
銀行は、買掛金に不足はないか、決済条件、過去の推移から、適正な残高かを探ってきます。
残高が、いきなり減ると、粉飾ではないかと疑われます。
逆に、大きく増えている場合は、資金繰りにつまっているのではないかと危惧されることがあります。
いずれの場合も、しっかりと変動理由を説明する必要があります。
貸付金があると評価が下がります
貸付金は、銀行がもっとも嫌う勘定科目です。
とくに社長、関連会社への貸付金は、使途不明な資金流用として銀行がとてもきらいます。
社長、関連会社への貸付は、発生しないようにしてください。
どうしても避けられなければ、返済実績と返済見込を、きちっと銀行へ説明開示して、なるべく評価を下げられないように努力してください。
銀行員は、借入金の残高は必ずチェックします
月商の3ヶ月分までが、適正な借入残高であるとよく言われています。
6ケ月を超えてくると銀行は、警戒します。
ただ、これは、あくまで、一般的な目安です。
製造業なら設備投資が必要ですので、もっとたくさん借入をしている健全な会社は、いくらでもあります。
卸売業であれば、月商3ヶ月分の借入残高でも、危険水域にあると思われることもあります。
借入金残高が大きい会社がさらに借入をしたい場合には、資金繰り計画表等を作成して、銀行員を安心させるのが一番です。
新規借入が、赤字補てんではなく、運転資金や設備にちゃんと投資され、返済財源も目処がたっていることを、資金繰り計画表を準備して、丹念に説明する必要があります。
資金使途と返済財源の明示をするのです。
これは、資金調達における基本です。
過剰債務の会社は、きちっとした説明をしなければ、融資のための稟議書は書いてもらえません。
審査の土俵にも乗せてもらえないのです。
ノンバンクからの借入は、避けてください
ノンバンクからの借入があると評価を下げられます。
金利の高い借入があると、かなり資金繰りに困っている会社とみられてしまうからです。
銀行からの借入は、かなり難しくなります。
銀行、信用保証協会の評価が下がるので、少なくとも決算日の時点では完済しておいて、決算書にのらないようにしてください。
有効な対策1 決算書への説明は、書面で渡すこと
決算書だけをそのままぽんと渡すのは危険です。
どう解釈されるかわかりません。
ですので、決算書を渡すときは、会社の側に立った説明は、必須です。
さらに、決算書の説明は、必ず、書面で渡してください。
言葉で説明しても、稟議に書き込んでくれません。
書面でわたせば、稟議に添付するだけですので、こちらの意図が、役職者に伝わります。
決算書と説明資料は、ひとつのパッケージと考えてください。
できれば、経営計画も添付すると効果は、大きいです。
説明書類の添付や、経営計画書の提出をしている会社は、少ないので、銀行の評価をぐっと上げることができます。
有効な対策2 決算書がぼろぼろなら経営計画書をつくるしかありません
銀行は、金融庁から定性評価を重視するように求められています。
銀行は、数字だけで割り切った定量評価をせずに、企業の実態をよく見て、融資や本業支援を行いなさいということです。
具体的には、決算書や担保・保証だけに頼らずに、企業のビジョンを理解し、SWOT分析を実施して、企業の経営実態を深く理解することにより、定性評価を行い、その評価に基づき、格付けを行って、融資可能性を判断するということです。
決算数値がわるくとも企業に将来性があり、経営者の資質がたかければ融資支援をしなさいというのが金融庁の考え方です。
ですので、決算書がぼろぼろで担保もなく、定量評価が低くとも、会社に将来性があれば、投資資金を貸し付けてもらえる可能性は前よりも高くなりました。
金融庁は、銀行にとっては絶対的な存在なので、この金融庁の方針転換は、銀行の融資姿勢に対して大きな影響を与えています。
銀行による定性評価を高めるためには、知ってもらう努力が大切です。
銀行マンは一人あたり数十社の担当を持ち、多忙です。
また、企業の事業を見極められる人は多くはありません。
長くにわたって定量データだけに頼って企業を評価してきたので、事業の将来性を目利ききする能力も低くなってしまったのです。
担当者が、ヒアリングはしてくるでしょうが、多くの場合、経営者の思いはなかなか伝わらないでしょう。
ですので、待ちの姿勢ではだめです。
こちらから経営計画を差し出して、会社の将来性、成長力をこちら側が証明する努力をしないと、高く評価はしてくれません。
ただ、銀行もばかではありませんので、いい加減な経営計画をつくっても、評価はしてくれません。
リアルな経営計画を作り提出することが大切です。
過去の経営実績を冷静に分析し、企業をとりまく外部環境の機会と脅威と、経営の強みと弱みを客観的に見つめる必要があります。
この分析に基づき、無駄をそぎ落とし、強みに経営資源を集中する、『肉を切らせて骨をたつ』式の、真摯なシナリオをつくれば、理解は得やすいでしょう。
面倒くさいかもしれませんが、定性評価に対する対応はおろそかにすべきではありません。
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