工藤聡生
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政治経済学部卒、公認会計士・税理士。
役員退職金による自社株の株価対策
社長が存命中に計画的に退職金を支給して自社株の株価を引き下げる方法です。
社長への退職金は、一般的には次の算式で計算されます。
退職金=最終月額報酬額×役員の在籍年数×功績倍率(2~3倍)
社長の在籍年数はとても長いことが多いので、大きな金額を退職金として支給し、自社株式の株価を劇的に下げることが可能となります。
例えば、役員報酬が150万円で在籍期間が25年の社長であれば、次のように計算されます。
退職金=150万円×25年×3倍=11,250万円
1億円以上の退職金が支給可能です。
ここで再度、自社株式の原則的評価方式のひとつである、類似業種比準価額の算式をご覧になってください。
[類似業種比準価額の算式]
利益の要素は、3倍に加重されており、役員退職金で利益を0にすることができれば、自社株式の評価額は、劇的に下がることがご理解いただけると思います。
株価が下がった時点で後継者に生前贈与すれば、少ない税負担で自社株式を移転することができます。
退職金に対する所得税と住民税は、次の算式で計算した退職所得に分離課税されます。
退職所得=(退職金-退職所得控除)×1/2
三つの理由から税負担は、大幅に軽減されます。
- 退職所得控除が差し引かれるのでその分所得が小さくなり税負担が軽減される。
- 所得を2分の1にして課税されるので税負担も2分の1以下となる。
- 分離課税なので、税率が低くなりその分だけ税金が安くなる。
役員報酬として支払うより、退職金としてお金を支給したほうが税負担ははるかに軽減されるのです。
また、この退職金は、後継者以外の子供たちへの代償用の財産として使えば、遺産分割をめぐる後継者とほかの子供たちとの争いの防止に役立ちます。
あるいは、納税資金としても利用できます。
中小企業オーナーの遺産のほとんどは自社株式です。
会社にたくさんお金があっても、会社のお金は、直接的には、遺産分割用資産としても、納税用資金としても使えません。
オーナー個人に移転する必要があります。
社長への退職金の支給は、社長個人への資金移動の最も有効な手段の一つです。
以上の役員退職金支給のメリットをまとめます。
- 社長の退職金は、在籍期間が考慮されるので、多額の支給が可能であり、その多額の退職金は、自社株式の評価をその分だけ下げてくれる。評価額が下がった分だけ、自社株式にかかる贈与税、または、相続税は安くなる。
- 役員報酬として支給するのに比べてはるかに所得税の負担割合が低くなり、税負担が軽減される。
- 支給された退職金は、後継者以外の子供たちのための遺産分割用の資産として活用できる。
- 支給された退職金は、納税資金としても活用できる。