工藤聡生
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政経出身、公認会計士・税理士。
税務調査に狙われやすい会社とその対策
利益が伸びている、又は、売上が伸びているのに利益が減少している
- 売上が伸びているが、利益が変わらない、あるいは利益が減少している会社。利益を隠しているのではないかと疑われます。
- 同業とくらべて利益率が低い。
- 売上が数億円以上なのに、毎年の利益額が、数十万円で安定している。銀行から嫌われず、かつ、税金を抑えられるレベルで意図的な会計操作を行っているのではないかと疑われます。
- 利益がたくさん出ている会社。利益を圧縮するためになにか操作をしているのではないかと疑われます。
【対策】
原価や経費に関して税務証拠を整備しておきましょう。
とくに、売上が伸びているのに利益が減ってしまっている場合は、市場、競合他社、原価、人事等の経営環境の動きから、利益が出ていないのは当然であるということをわかりやすく納得させられるように説明シナリオを事前に用意しておきましょう。この説明が、不十分であると、調査官が、さらに本腰をいれて利益が出ていない原因について追求してきます。調査官は、納得するまであきらめませんので、事実をわかりやすく説明するシナリオを用意しておく必要があります。
変動が激しい勘定項目があると狙われる
税務書は、過去の決算書の勘定科目の推移を分析して調査対象を決めています。次のような場合は、調査対象になる可能性が高いといえます。
- 原価率の増減の大きい。原価率が増加していれば架空仕入れではないか、原価率が減少していれば過去に架空仕入れを計上していたのではないかと憶測されます。
- 売上の著しい増減。売上が伸びていればもっと本当は伸びているのではないかと判断されるし、減少していれば売上を隠しているのではないかと憶測される恐れがあります。
- 経費が著しく増加している。異常な増加があると架空経費ではないかと疑われます。
- 在庫や売掛金が著しく減少している。売上がもっと大きいのではないか、原価がもっと本当は小さいのではないかと疑われます。
- 買掛金、未払金が著しく増加している。原価と経費の押し込みを疑われます。
- 役員からの借入金、貸付といった貸借対照表項目の以上な増減。とくに役員借入金が大幅に増加するとその資金源が課税逃れから生じているのではないかと疑われます。
- 退職金や貸倒損失などの一時的な損失の金額が大きい。内容を確かめ、税法的要件を満たしているかを確認するためにやってくる可能性があります。
- 赤字から黒字へ転換した。もっと黒字額が大きいのではないかと考えます。
【対策】
- 過去の財務諸表を分析して、調査官が問題視するであろう、重点調査ポイントを事前に予測しておくべきです。
- この重点ポイントに対して、十分な税務証拠と合理的な説明シナリオを事前に用意しておきましょう。わかりやすく、説得力のある説明が必要です。
- 不十分な説明を繰り返していたりしても逆に調査の拡大を招くだけです。積極的かつロジカルな説明を用意しておきましょう。
重点業種に該当する会社は狙われやすい
不正が多い業種に属していると税務調査に選定されやすくなります。
たとえば、現金商売、飲み屋、夜のお店、パチンコ店などは、実際に、売上除外をしている会社が少なくないので、狙われやすくなります。
また、税務署は毎年、重点的に調査対象とする業種を決めています。その業種に該当する場合には税務調査は受けやすくなります。
【対策】
税務調査は、来るものとして準備しましょう。
過去の財務諸表分析を行い、異常な変動については確証を整備し、説得力のあるシナリオを用意しておきましょう。
IT系などの新業種の会社についての留意点
ITやインターネット系ビジネスなど新形態のビジネスについては、あらたなビジネス形態であるため、こちらの説明がわかってもらえなかったり、税務調査官の勘違いや憶測が起こりやすかったりします。
税務調査官も人の子です。必ず正しい議論をするとは限りません。
この勘違いに基づいて税法を解釈され、修正申告をもとめられたり、調査が長引いたりすることがよくあります。
税理士や会社がわかりやすい説明を心がけることにより、こちらに不利な勘違いや憶測を回避するように努めましょう。
過去に重加算税を追徴された
前歴があるわけですから、にらまれても仕方ありません。
ですので、安易に重加算税を受け入れてはいけません。
実は、意図した隠蔽という重加算税の要件は、解釈に幅があり、反論の余地がかなりあるのです。
重加算税が再び賦課されるとさらに評価が下がるので、周到に準備をしましょう。
長い間、税務調査が実施されていない
とりあえず、税務調査を実施して様子を見ようという判断です。
10年以上にわたって税務調査がない会社は、要注意です。
うまく乗り切れば、また、長い間、来ない可能性があるので、周到に準備しましょう。
外注比率が高い
外注費は、架空経費の手段としてよく使われるからです。
消費税の還付を受けた
税務署は、消費税の還付には目を光らせています。
還付を受けると税務調査に入られる可能性はかなり上がります。
不正な還付に関しては、金額が大きくなくとも脱税として告発されることもあります。
また、一部の会計事務所が喧伝している還付スキームが、違法として目をつけられたこともありました。
いずれにしても、消費税に関しては、税務署のスタンスは、厳格ですので、要注意です。
そのほか
- 海外送金がある。海外取引が多いと認識されると、かなり目を付けられます。海外取引は、租税回避行為が比較的容易だからです。
- 多額の損益通算をしている。
- 税理士がいない。税理士がころころ変わっている。
税務調査対策でもっとも大切なこと
多くの税理士は帳票類の整備まで行い、あとの説明は会社に任せるというスタイルをとります。 ただ、それでは余計な税金をとられてしまうこともありえます。 税務調査官は後述するように大変なプレッシャーのもとで働いています。税金の追徴額がすくなければ、税務署の中で居場所がなくなってしまうといっても過言ではありません。ですから、税務調査官は基本的にやる気まんまんです。
また、税法には解釈が曖昧な領域がたくさんあります。解釈の仕方がわかれる論点が無数にあるのです。この曖昧な領域では、こちらが理論的な反論をしなければ、そのまま修正申告を求められて税金を余計に取られてしまうことが少なくありません。ですから、単に資料整備をしておき、税務調査官のいいなりという姿勢では納税者の基本的権利は守れません。事前に税務調査官が突いてくるだろう論点をピックアップし、税務理論的に整合性のある反論を用意しておかなければなりません。
多くの税理士事務所は税務署側に立ち、適正な税務行政の実現に協力するという視点から税務署との理論的対決を避ける傾向にありますが、当事務所はこのような考えはとっておりません。適正な税務行政の実現のためには、税理士は、顧客の事業継続の観点から、理論的に正しい反論を堂々と主張するべきだと考えております。
当事務所では、この事前の論点表の作成を大変に重視しておりますが、いままで数百回の税務調査の経験がありますが、この論点表で用意した説明シナリオが大きく打ち破られたことは一度もありません。徹底したリサーチをして、整合性のある税法解釈論を心がけているからです。事前に論点表を作成し、税務理論的に納得性の高い反論を入念に練っておくのが税務調査対策の秘訣です。
変に逃げ回っても、最終的には補足されてしまいます。堂々と正面から議論することが税務調査対策のポイントなのです。