経営目標は貸借対照表にある

この記事の著者

工藤聡生 
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政治経済学部卒、公認会計士・税理士。

経営者の大半は、試算表を見ても、会社の状況を理解できません。
会社の実態が、望ましい姿とどれだけかい離しているのか、想像できません。
多くの経営者は、試算表を読めないからです。
とくに貸借対照表(BS)は苦手です。
ほとんど見たことがないかたが大半です。
会社の価値は、PLではなく、BSによって判断されるので、BSがわからないと会社の実態はわかりません。
BSがわからないので中小企業の経営者の会計感覚は、麻痺してしまっていることが少なくありません。

中小企業の会計感覚がいかに誤っているか、例を挙げて説明しましょう。
多くの中小企業は、実質的には赤字です。
赤字はいやなので、会計事務所に頼んでちょい黒にしてもらいます。
多くの経営者は、会計事務所から利益がちょい黒の、収支トントンの決算書をみせられると、合格点をとったような錯覚を起こします。
ちょっとお化粧を頼んだことも忘れて、経営者として自分のことを『まあまあだな』などと錯覚を起こします。
税金も発生しないので、なおさら、自分に合格点を与えたくなります。
しかし、それでよいのでしょうか。
収支がとんとんの会社は、利益をちょい黒にするためにちょっとお化粧をします。
そのお化粧の分だけ資金繰りは悪化して借入は増えていきます。
お化粧の分は、実態がないので資金ショートするからです。
ちょい黒の決算書で満足している会社は、じりじりと借入金が増大して、そのうちに首が回らなくなります。
中小企業の経営者の会計感覚は、会社を必然的に脆弱化させ、破滅させるのです。
BSが読めないので、この点に経営者はなかなか気づきません。

そもそも企業経営の目的は、会社を強く成長させることにあります。
会社の価値は、将来にわたって獲得できる現金の総額です。
投資銀行が、よく上場企業のあるべき株価を算定していますが、この論理を使っています。
ずばり、企業価値は、純資産に裏打ちされた現金残高にあります。
収支がとんとんの会社は、現金を生み出していません。
したがって、企業価値はゼロです。
利益はちょっとでているが、資金繰りは苦しい。
当然です。
企業価値がゼロの会社の経営が楽なはずはありません。
経営の目標は、PLではなくBS、すなわち貸借対照表に設定されるべきです。
純資産を増やし、実質的な現金残高(現預-借入金)を増加させるべきなのです。
借入によらない現金残高こそが、会社の価値なのです。
企業価値の創造以外に、経営目標があり得るでしょうか?
あり得ないはずです。
これが、企業経営の原点であり目標です。
当たり前といえば当たり前です。
お金を増やしたくて経営をしているわけですから、お金が重要なのは当然です。
しかし、中小企業の会計感覚では、この当然の事実が見失われているのです。

仮に5年間で1000万円だけ借金を減らし、その分だけ現預金を増やす経営目標を設定したとします。
実質現金である『現預金-借入金』が増えるので、企業価値は、その分増強され、会社は強靭になります。
正しい経営目標です。
この場合、毎年200万円の純利益が必要です。
税引き後利益しか、会社の資産は増大させないからです。
したがって、税引き前利益は、280万円、必要です。
大切なのは、税引き後の利益しか会社を強くしないということです。
節税に走り、収支とんとん経営を続けていたら、純利益もなくなるので、会社の純資産は増加せず、対応する現金も増えず、いつまでたっても会社は強くなりません。
余計な税金を回避することは必要ですが、税金そのものを回避しようと節税商品に走ると純利益が発生せず、会社にはいつまでたっても純資産は蓄積されず、現預金が増えません。
企業価値は増えず、会社は脆弱なままです。
会社を強くするという観点からは、収支トントンは、絶対防衛ラインではないのです。
PLしかみていないと企業価値が理解できませんし、税金が発生しないのが正解という誤った会計感覚をもってしまいます。
経営の絶対防衛ラインがわからなくなるのです。
そのために、実際には経営に失敗していても、現状に満足してしまい、会社をさらに弱くしまうのです。
税理士のほぼ8割はこの点を理解していません。
収支トントンの状態がとてもまずい状態だということを理解していないのです。
また、税金が発生しなければお客に怒られませんし、会社の経営は社長の責任とおもっているので、余計なアドバイスはしません。
『暴飲暴食は体によくありませんよ』と居酒屋の店員が助言してくれないのと同じです。
しかし、その状態では、会社は長くは持たないのです。

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