工藤聡生
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政治経済学部卒、公認会計士・税理士。
事業計画書の作成手順
閃きの重要性
大きく成長した事業も、最初の出発点は、ちょっとした閃きであったはずです。
最初から完成された事業計画書が用意されていたわけではありません。
企業家が閃きや勘を信じて、事業をスタートするのは誤ったことではありません。
ただ、閃きのままで事業プランを整理せずに、事業を開始すると、事業はほとんどの場合に失敗します。
市場ニーズが実は思ったほど強くなかったり、競合が予想より強かったり、あるいは、投資がおもったよりもかさんだりとさまざまな障害にぶつかり、あっという間に資金不足に陥ってしまうのです。
仮説検証により事業計画書の基本コンセプトを作る
ですから、新規事業をはじめたり、事業の方向性を大きく変えたりするときには、最初の閃きを深ぼりしてゆく必要があります。
とはいうものの、新しい領域に進むわけですから、情報が不足しています。
そこで、考えを深ぼりするために仮説検証のプロセスをとります。
仮説をつくって事業の基本コンセプトを決め、それに基づき、潜在顧客や競合他社を調査し、その結果をフィードバックして、仮説を修正するというプロセスを何度も繰り返すのです。基本コンセプトがないとつっこんだ調査することすらできないからです。
まず、事業計画書の基本コンセプトについておおまかな仮説を立てます。
この最初の段階では、なにが正しいかわかりません。
ですから、勝手な思い込みでかまいませんので、事業計画書の基本コンセプトを決定してください。
考えなければならないのは次の諸点です。
- どんな市場ニーズにターゲットするのか
- いかに競合他社に差別化するか
- 商品・サービスの具体的設計
- 予想される市場規模
次に、詳細に調査を実施して、自分が立てた仮説に誤りがないかを検証します。自分の仮説に無理があると思ったら、柔軟に事業計画書の基本コンセプトを変えてください。
市場ニーズが弱いと思ったら、隣接するニーズを探ってください。
競合が強いと判断したら、ちょっとちがった差別化のやり方を検討してみてください。
商品・サービスの設計に無理があると思ったら、ターゲットする市場ニーズや、差別化要因を見直してください。
市場規模が小さすぎる、あるいは伸びていないことが判明したら、隣接するセグメントを検討してください。
仮説検証プロセスの重要性
仮説を立て、それを軌道修正するプロセスはとても大切なことです。
自分の考えを修正する姿勢をもてないひとは事業に失敗します。
仮説検証のプロセスは、事業を開始した後も継続しなければいけない自己批判行為です。
事業がうまくいかなくとも自分の考えに固執して「おれは間違っていない」といい続ける方は、事業に失敗します。
天才でもない限りは、誤りを必ず犯します。いや天才でも誤りを犯します。
自分の失敗を修正する姿勢を持たなければ必ず、顧客に見放されます。
仮説検証プロセスで、とくに重要なのはターゲットとしている顧客ニーズの検証です。
さまざまな潜在顧客にじかにあって潜在顧客の気持ちや感情を理解するようにしてください。
お客が具体的に商品やサービスを買う場面を想定して、かれらが求めているベネフィット(便益)や、購買の意思決定をするときに重視している要因などを十分に理解するようにしてください。
お客の感情の動き、求めているベネフィットを肌感覚で理解できれば、事業に失敗することはありません。
事業計画書の詳細を作る
業計画書の基本コンセプトが決まったら、次は、事業の詳細を決定します。
- 『経営理念・ビジョン』 経営者の良心・理念を明確にする必要があります。すべては因果応報です。顧客からお金を取ることだけしか考えない会社は長続きしません。また、会社の将来像(ビジョン)を明確にすることも大切です。志は高く持つべきです。特定の地域やターゲット市場でナンバーワンを目指しましょう。将来の売上目標(数値ビジョン)も数値化しましょう。数値化することにより経営者の集中力は高まります。
- 『業務の流れ』 商品・サービス、お金の流れを設計し、利用する仕入先や外注会社を特定します。業務の流れが決まらなければ、具体的にビジネスをスタートすることはできません。流れ図を書いて業務の流れを明確にしましょう。
- 『いかに売るのか:具体的な販売戦略の策定』 販売手法を具体的に検討することは、中小企業の事業計画書ではとても大切なことです。中小企業は、多くの場合に、財務力に限りがあるので、早い段階で販売を軌道に乗せなければ、事業は継続できません。口コミにたよって売上が自然に増加するのを待っているわけにはいきません。財務力のない中小企業でも、さまざまな販売戦略をとることはできます。人的営業、チラシ、ポスティング、フリーペーパー、ホームページ、DM、テレフォンマーケティング等々。具体的にどの手法をつかって販売をしていくのか検討することはとても大切です。販売戦略については、先入観を捨ててあらゆる可能性を検討してください。例えば、会計事務所でも、ポスティングやテレフォンマーケティング(電話営業)で売上を伸ばしている事務所もあります。
- 『価格戦略』 商品・サービスの価格を設定します。提供する商品・サービスの付加価値がユニークであればあるほどに、価格は高めに設定することができます。しかし、「競合他社より高い付加価値でしかもより安く」が中小企業の基本です。
- 『組織のあり方』 事業の基本コンセプトにあった組織を構築する必要があります。効率的で安上がりな組織の設計を心がけましょう。
- 『事業収支計画:損益計画や資金繰り計画の策定』 早期に黒字化し、資金繰りがショートすることがないように収支計画を策定します。事業収支計画を何度もシミレーションすることによって、無駄な経費や投資を抑えることができます。
- コンティンジェンシープラン さまざまな事業リスクを想定し、最悪の事態に陥った場合の対応策を事前に決めておきます。どうしても事業が好転しなかった場合に、事業から撤退する際の基準、いわゆる「損切りライン」の設定は特に大切です。人には向き不向きがあります。ある事業でだめなら、別の事業に挑戦すればよいのです。多くのかたは損切りラインを決めていませんが、損切りラインがあれば、会社がつぶれる前に撤退し、別の事業に転戦することが可能となります。
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